|
|
|
|
 |
もちろん、機内にも特権は満載だ。Fクラスの客たる者は、待合の椅子からずり落ちそうになっている他の安い搭乗客を尻目に、真っ先に搭乗することができる。スリッパや歯磨きセットや耳栓や目隠しの入ったセットはEでももらえるが、Fのはビニールでなく一生モノではないかと思える革製だったりする。さらには、ズボンとシャツではくつろげないだろうと、甚平が配られたりする(あまりにもくつろぎ過ぎなので手を出す客は少ない)。
そして料理だ。そもそも機内食はまずいという概念は変わりつつある。さる美食家は、飛行機旅行に贅沢なものは無駄。おにぎりでよろしいと慧眼を発揮したり、人食いが好きなハンニバル・レクター博士はフォーションのランチパックを持ち込んだりしているが、100万円の元をとろうと考えるF初心者が感激するのはキャビア(残念ながら2006年1月ワシントン条約によって天然キャビアの取引が禁止されたが)である。クラッシュアイスの上にうやうやしく置かれたキャビア缶の横にパンケーキとゆで卵のみじん切り、サワークリームなどが置かれて出てくるが、Fの客たる者、黒い粒だけをスプーンですくって味わうべし。ドリンクメニューには、各国のワインは当然で、日本の航空会社であれば、なかなかの日本酒や手に入りにくい焼酎なども用意されている。和食にするか洋食にするか迷ったら、「両方くれないか」くらいのわがままが許されるのもFの特権だ。 |
さて、自分の席に着いてしばらくして、フライトアテンダントの女性が「○○でございます」とチーママのように自己紹介し、どの娘を指名するか聞いてくる、じゃなくて、担当アテンダントを紹介してくれた。奇妙なデジャヴ。そう、これは銀座のクラブで味わう感触だ。航空会社に言い訳させるなら、Fの客層は銀座のクラブとダブっているので「同じ質のサービスを求められる」ということになるのだろう。
実際、機内の様子を観察していると、客の名前と過去の履歴を覚えていて、「先日のご旅行は楽しまれましたか」などと担当アテンダントがご機嫌うかがいする光景も確認できた。そのうち、「お帰りなさい」と客を機内に迎え入れ、同伴搭乗やアフターなどといったシステムも導入されるのかも知れない。
このような「市場」にマイレージの恩恵で迷い込んだ私は正直圧倒された。悔し紛れに、我が家にいてキャビアとワインを用意し、カウチに寝そべってレンタルビデオを観れば、Fクラスの100分の1くらいの料金で同じ快適さが得られるではないかと想像してみた。しかし、それではココロがちっとも弾まない。遠く離れた海外へ飛ぶという、娯楽なのか苦行なのかわからない心の緊張があってこそはじめて、ファーストクラスの「特権」は成り立つのだなあと感心した。
「幸福な家庭は一様に幸福だが、不幸な家庭はそれぞれに不幸」という言葉を思い出して、一様のサービスになじめない我が身を、逆に計ることになってしまったようだ。
ありていに言うなら、お金持ちになってみないと、ファーストクラスは楽しくない。 |
 |
|
|
神足裕司●こうたりゆうじ
1957年広島生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。大学時代に書いた『金魂巻』でマル金・マルビの流行語を生む。週刊朝日に連載した『恨ミシュラン』はベストセラーになった。現在は、週刊SPA!『神足裕司のこれは事件だ』などのコラムを連載中。さらに、テレビやラジオのコメンテーターとして活躍し、02年にベネチア映画祭で審査員特別大賞に輝いた『六月の蛇』(塚本晋也監督)では主演男優に。流行語大賞審査委員
・著書紹介
『誇大毛想
ハゲがハゲを相手にハゲを語り尽くす』神足裕司/編 山田五郎、久住昌之ほか(扶桑社) |
|
 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|