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星空を世界遺産に――ニュージーランドの“星空の村”テカポの挑戦

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Sponsored by ニュージーランド航空

配信期間:2017/2/6(月)〜3/5(日)

南半球の島国ニュージーランドに人口400人の小さな村「テカポ(Tekapo)」がある。かつてのテカポには主だった観光資源がなく、大きな街と街を結ぶ国道沿いにあることから休憩で立ち止まる人しかいなかった。

ところが今では世界中から観光客が訪れるニュージーランド屈指の観光地となっている。観光客の目当てはテカポ湖畔に建つ教会、美しい花々、そして――夜空いっぱいに広がる「星空」だ。

ニュージーランドにとって星空は元々、歴史的にも結びつきが強いものである。ハワイやフィジーに住んでいたポリネシア民族が、星を使って方角を知り、羅針盤(道しるべ)として何千キロもの海を渡ってニュージーランドにたどり着いたという。先住民族マオリの起源だ。

星空の絶景を求め、世界中から年間150―200万人もの観光客が集まっている。特にここ3年ほどで世界中から訪れる観光客が急増し、日本からも若い女性の観光客が増えてきた。

村の経済が潤うことは一見いいことのように思えるが、住民たちはジレンマを抱えることとなった。「大きなホテルや飲食店を建てて観光客を迎えたいが、人工光が増えれば星空は見えにくくなってしまう」「観光客を呼べば呼ぶほど村は賑やかになるが、このままテカポで静かに暮らしたい気持ちもある」――。

ジレンマを解消するために立ち上がったのは、ニュージーランドに移住した日本人だった。「テカポの星空を世界遺産に登録させよう」。日本人の言葉に、長くテカポで暮らす住民らは戸惑い、反発した。しかし今、世界遺産の登録運動は結果的に村の心を一つにさせている。

星空は「当たり前にあるもの」じゃない

今から17年前の2000年、テカポでは再開発の計画が持ち上がった。当初は「観光客を呼び込むために湖の周りにホテルや飲食店などを増やす」といった内容で、村を豊かにすることばかりが注目されていた。テカポの星空は今ほど有名ではなく、住民は「星空は当たり前にあるもの」と考え、特別さを理解できていなかったという。

そんな状況に異議を唱えたのが、テカポの星空ツアー会社「Earth and Sky」代表・小澤英之さんである。テカポの星空に魅せられて以来、村に住み続けている。

小澤さんは、再開発計画に反対する材料として「テカポの星空をユネスコの世界遺産に登録しよう」と唱え始めた。世界遺産に登録されることは村の再開発に制約を生むかもしれないが、テカポの夜空がいかに特別なものであるかを伝えるのと同時に、結果的に観光客が訪れ村にとってプラスであると説明した。

説明だけでは理解が得られないと、様々な行動に出た。星空ツアーで得た利益を小学校に寄付する、ニュージーランド国内の天文学者を呼び特別な星空であると説いてもらう、天文台に住民を招待して実際に星空観察を体験してもらう……。星空がいかに特別であり、暮らしの充実にも寄与しているかを伝え続けた。

星空の魅力について聞くと、小澤さんはこう答えた。

「テカポの星空は、ただ美しいものを見て感動するだけではありません。頭上に広がる宇宙を感じること――それは、自分が地球という星の上に立っている事実に直面すること。つまり、自分の本当の居場所を知ることができるんです。その昔、マオリが星を道しるべに自分たちの進むべき方向を決めていたように、星は現代の人たちにとっても、自分のいる場所を見つめ直したり、これから進むべき方向を指し示したりする道しるべだと考えています」

小澤さんの想いは、長い年月をかけて住民の心に届いていった。

マオリが、村の心を一つにしていく

世界遺産登録にほとんどの住民から理解を得たが、ごく一部は懸念の声を上げ続けた。「星空ツアー会社がお金稼ぎをするためだけの提案ではないのか」「天文台が自然保護だけを考えて、村の発展を考えていないのでは」――。

その訴えを聞き、小澤さんは2016年11月にニュージーランドのマオリの保護団体との業務提携を行った。このニュースはニュージーランドの大手新聞社でも取り上げられるほどの話題となった。

なぜEarth and Skyはマオリと手を結んだのか。

マオリと共に星空を世界遺産に登録しようとするのは、一企業や天文台の私利私欲ではなく、ニュージーランドという国を思っての活動であると住民を説得できるからである。

そもそも村の名前、テカポ(Tekapo)はマオリの言葉だ。Tekaが「眠る」「横たわる」、そしてpoが「星」や「夜」という意味を持つ。つまりテカポは「星が眠る場所」だ。そう聞くと空には星がないように思われるかもしれないが、テカポの夜空は星が眠るどころか、空一面に星が瞬いているのだ。

住民の理解を得た小澤さんだが、「世界遺産登録への道のりは長いです」と苦笑する。

星空の世界遺産登録は、ユネスコへの新しい提案

テカポは数年前から星空をユネスコの世界遺産にするべく活動しているが、2017年現在登録には至っていない。ユネスコが設けている世界遺産の登録基準では、「星空」は自然遺産、文化遺産、複合遺産のどの基準にも当てはまらないのだ。

だが、現在テカポは、ユネスコから「星空を世界遺産にする」テストケースの場として選ばれている。世界中に星空の美しい場所があるなか、なぜテカポが選ばれたのか。その大きな理由は立地である。ほかの候補地は4000―5000メートルと標高が高く、広大な自然保護区のなかに天文台があるため、人がほとんどいないような場所ばかりだった。ところがテカポの天文台は、標高1031メートルと非常に低い場所に位置し、山のすぐ麓に村がある。星空が人と共存している、世界的にも大変めずらしい場所だ。観光客にとっては、星空ツアーに車で参加できるほどの手軽さがある。

観光客が簡単に星空を楽しめる理由は、標高の低さだけではない。テカポは年間の晴天率が70%、また星の観測を妨げる原因となる湿度が一年を通じて低いなど、星の観測条件が揃っている。訪れれば必ず星空が見られるわけではないが、確率は十分に高い。ツアーが英語だけでなく日本語にも対応しているのも日本人にとっては大きな魅力である。

小澤さんは「テカポを自然遺産にすることは、ユネスコへの新しい提案なんです」と話す。つまり、世界遺産にこれまでになかった基準を設けようとしているのだ。そのためには住民の賛成や協力は不可欠であるし、実際に人工光を抑えるなど暮らしへの影響がある。

では、テカポの住民はどんな暮らしをしているのか。

飲食店は数えるほどしかなく、病院や図書館もない。400人の住民はさぞ不便な生活をしているかと思いきや、意外にも答えは「不便に感じたことはない。必要であれば車で30−60分移動して用事を済ませればいい」と淡白だった。住民は協力しあい、今よりも生活の制約を生むかもしれない世界遺産の登録を進めようとしている。

「Just go for it(やってみよう)」

夜のテカポを歩くと村がとても暗いことに気づく。街灯の間隔が広く、1つ1つの明かりが弱い。また村の中心地でもネオンを目にすることはない。テカポには、「過剰な街灯は人々が夜空を見ることを妨いだり、天文台が行っている研究に影響を与える」と人工光の制限を促す条例があるのだ。

そのため街灯は拡散性の弱いオレンジ色の電球を使い、街灯の傘は光が上に拡散しないよう下を向くよう工夫されている。

このほか、村を背にして湖を眺める範囲内に人工物を建てることや、2階以上の建物を建てることが禁止されている。これらの条例はもともと星空を守るために作られたものではなく、テカポの星空が有名になる以前から、住民たちの間で「暗黙の了解」として存在していた。近年ようやくその暗黙の了解を明文化し、条例として制定したのである。

再開発計画が持ち上がった際に忘れかけられた「暗黙の了解」は、小澤さんの働きかけなどによって改めて住民が遵守するようになった。特に理解を示しているのは自治会長のステラさんである。

「星空を世界遺産に登録することについては歓迎しています。条例の範囲内での建築物であれば認めているし、星空に影響するような開発は行われていない状況です。星空を世界遺産に登録することに影響が出ることはありません」

条例の範囲内で開発が行われ、観光客が増えるのであれば「Good for everyone(みんなにとって良いこと)」であると語る。一方で、観光客の数に対して宿泊施設や公衆トイレなどが圧倒的に足りないことは問題だという。

観光とは無縁の農家にも、小澤さんの想いは届いている。テカポで50年以上羊農家を営むジョンさんは、世界遺産登録を歓迎する住民の1人だ。

「星空が世界遺産に登録されることで、どうなるのか正直なところ細かいところはよくわかりません。今のところ観光客が増えて困っていることはないし、世界遺産に登録されても良いと思っています。農場が買収されてホテルを建てる計画があれば反発しますが、そんな動きはありません。だから、先々のことを危惧しても仕方ない」

ジョンさん以外にも村で見かけた人々に話を聞くと「星空が世界遺産になることは良いこと」「Just go for it(やってみよう)」と答える人たちばかりであった。

テカポで体感する、最高級の「当たり前」

もともとテカポの星空は、住民にとって「当たり前にあるもの」だった。世界遺産登録運動を通して住民がその特別さに気づき、「観光を推進しテカポを発展させたい」「これまで通り自然豊かで静かに暮らしたい」というジレンマは解消され、今は心を一つにしている。

テカポの星空を観てみると、その「当たり前にあるもの」の素晴らしさに驚かされる。澄み渡った新月の夜は、星の輝きだけで自分の影ができるほどだ。そんな星空が見られるのは、住民全員が星空に思いやりを持ちながら暮らしているからである。最高級の当たり前を求めて、世界中から人々が訪れるのもうなずける。

© 文=長田雅史