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外国人労働者100万人時代、見落とされる「言語難民」の子どもたち

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ヤフーの社会貢献

Sponsored by ヤフーの社会貢献

配信期間:2017/4/11(火)〜2018/4/11(水)

取材協力:GARDEN/堀潤

取材・文=GARDEN/堀潤

今、日本の労働市場には急激な変化が起きている。人口減少や高齢化による人手不足の問題だ。サービス業を始めとした第三次産業から、農業や製造業など一次、二次産業まで多くが人材確保に躍起になっている。この春、神奈川県や大阪市に続き、東京都でも国家戦略特区の制度を活用して外国人労働者による家事代行サービスが事業として認可されるなど、不足分を海外からの労働者に期待する動きは加速している。

厚生労働省調べによると、昨年10月末日現在の外国人雇用状況は108万3769人となり、4年連続で過去最高を記録。前年の同じ時期に比べると17万5873人、率にすると19.4%も増加した。
全体の3割以上が製造業だが、ここ数年で宿泊・飲食サービス業や卸売業、小売業での増加が著しい。

東京五輪・パラリンピックが開催される2020年を前に、建設ラッシュ、宿泊やサービス業の人材需要の急増で、外国人労働者が200万人規模になるという予想も聞かれるほどだ。

YSCグローバル・スクールには、フィリピンや中国、ネパールなどからの子どもたちがいる。

YSCグローバル・スクールには、フィリピンや中国、ネパールなどからの子どもたちがいる。

そうした中「言語難民」と呼ばれる外国にルーツを持つ子どもたちが存在するのをご存じだろうか。母語も日本語も十分に学ぶことができず、周囲とのコミュニケーションに課題を抱えたまま成長し、学校や地域で孤立してしまうケースだ。その数は決して少なくない。

日本の労働市場が激変する中、日本文化や日本語教育を施す受け皿はあまりにも脆弱だ。支援体制はどうなっているのだろうか。子どもたちの言語教育を専門に支援する現場を訪ねた。

外国人の親たちへ、まずは連絡帳の書き方から

真冬の寒さが緩んだ3月初旬。東京・福生市の福生第一小学校では、新一年生として入学を控えた子どもとその親が集まっていた。
この日は、日本語が話せなかったり、日本に住んで間もない外国人の親や子どもたちに向けたサポートプログラムが実施される日だ。小学校入学前に知っておきたい知識や、簡単な日本語の習得など、学校生活で必須となるスキルを得る。

小学校入学を控えた親たちへのサポートプログラムには難民申請中の外国人も。

小学校入学を控えた親たちへのサポートプログラムには難民申請中の外国人も。

プログラムを主催するNPO法人「青少年自立援助センター」運営のYSCグローバル・スクールの通訳ボランティアが、特別支援学級の教室に家族連れを順次案内していく。彼らは、専門の日本語教師や小学校の教諭免許を持つスタッフだ。参加者は皆、肌も、髪も、目の色もさまざま。中国、フィリピン、ペルー、ネパールから日本へ働きにきた家族連れや、アフリカのギニアから来日し、現在難民申請をしている母親の姿もあった。

大人の腰の高さに満たない小さな背丈の子どもたちが、教室へ行き着席する。初めは不安そうな顔で座っていたが、「おはようございます」「手洗い、うがい」など、身ぶり手ぶりで教師と一緒に声を出し始めると、次第に笑顔もあふれるようになっていた。

就学前支援を行うYSCグローバル・スクールの教師。

就学前支援を行うYSCグローバル・スクールの教師。

別の教室では、親たちが担任への連絡帳の書き方や学校への電話の仕方を教わっていた。
「もしもし、○○の母親の△△と申します。担任の××先生をお願いできますか?」ロールプレイ方式で先生役と親役にわかれグループごとに繰り返し練習を続けていた。

風邪や家庭の事情で子どもを休ませる場合、学校側へどう説明するのかはとても大切な問題だ。連絡の仕方がうまくいかず、「勝手に休んだ」と思われることで、やがてネガティブな印象が親同士やクラスの子どもたちに広がりかねないからだ。

国によっては、学校よりも家族や親戚の集まりを優先させたり、地域の伝統的な祭りに合わせ学校を休ませるなど、日本では欠席理由として歓迎されないケースもある。

プログラムに参加したペルー人の母親は積極的に質問していた。「子どもがいじめられたりしたら大変だから」と表情は真剣だ。中国人の女性は「連絡帳という仕組みを始めて知りました。LINEでやり取りするのかと思っていたので」など質問は尽きない。

YSCグローバル・スクール事業責任者の田中宝紀さん。

YSCグローバル・スクール事業責任者の田中宝紀さん。

YSCグローバル・スクール事業責任者の田中宝紀(いき)さんはサポートプログラムの意義を語る。

「日本語を母語としない新小学1年生にとって、日本の生活・文化への基礎知識を前提とした日本の学校での「べんきょう」は、多くの困難を伴います。たとえば、日本語を母語とする90%以上の6歳児が、すべてのひらがなを読めるようになるといわれていますが、日本語が母語ではない子どもたちは、ひらがな1つ習得することも簡単ではありません。

生活面でも、集団行動や規律を求められる日本の学校文化は、外国にルーツを持つ子どもたちには独特なもの。入学後に戸惑ってしまう場面が多々出てきます。日本の学校に通った経験がない外国人の保護者にとっても、文化や習慣の違いは大きな壁です。日本の小学校はどんなところなのか、入学準備で何をしたらよいのか、…わからないこと、はじめてのことに、不安でいっぱいのはずです」

日本語指導を待つ外国ルーツの子どもたちは全国に約3万7千人

東京・福生市の「YSCグローバル・スクール」は、外国にルーツを持つ子どもたちを預かり、日本語教育を施す事業を続けている。教室は、駅前にある小さな雑居ビルの2階。ここでは外国から日本にやってきたり、外国人の親を持つ子どもたち約100名が日本語の専門教育を受けている。

日本の小学生から高校生に相当する年齢の子どもたちが中心で、大半が中国やネパール、フィリピン、ペルーなどアジアや南米などにルーツを持つ子どもたちだ。
日本語がわからないため学校で孤立してしまい、進学を希望しても受験を乗り越えるだけの日本語能力が身についていない。そんな悩みを持つ子どもたちを専門に引き受けているのがこのスクールの特徴だ。

ここに通う子どもたちは、親の経済的な事情で日本の公立学校に通うしか選択肢がなかったり、離婚によって日本人の父親から離れたため生活保護を受けていたりする。YSCグローバル・スクールでは、こうした家庭の子どもたちが安心して日本語教育を受けられるように「無償」で日本語教育を受けられる環境を提供してきた。

2014年度の文科省の調査によると、公立学校に通う約3万7000人が、日本語をほとんど理解できない状態で学校へ通っているという。日本語教育が必要な子どものうち約7000人は、人手不足から指導が受けられていない。教室で誰ともしゃべることができず、ポツリとただ座っている子どもたちがいるのだ。

適切な日本語教育を受けさせる支援体制は、地域格差が大きい。学校内で何らかの支援を受けている場合でも、担当者が子どもの日本語教育に関する知識を全く持っていなかったり、ごく限られた時間数しか支援を受けられない場合が少なくないという。

「日常の会話はできても、専門的な日本語教育を受けなければ語彙や表現力は圧倒的に不足してしまいます。それによって、相手や自分の心の内側を理解するような深い思考を重ねることができず、アイデンティティを確立できずに社会からドロップアウトしてしまう可能性が高まってしまいます。実際、心のモヤモヤを言葉にできず暴力的になったり、引きこもりになるケースが起きています。こうした子どもたちを放置することは、日本社会にとってリスクを増やす結果につながるのです」

田中さんは、子どもたちが自分を知り、相手に表現できるほどの言語を身につけるためには、教育支援が不可欠だと強調する。言語を失うことは、居場所を失うことに他ならないという危機感から、こうした思いを持っている。

YSCグローバルスクールの教師。

YSCグローバルスクールの教師。

日本語専門指導のNPO法人が果たす役割

YSCグローバル・スクールを度々訪ね子どもたちの様子を観察していると、ここが心の避難所のような役割をしていることに気がつく。中国・吉林省出身のゾウ・フォーン君(16)。この冬、地元の公立高校に進学するため受験に挑戦した。
彼の父親は、池袋の中華料理店で働くため去年5月に家族を連れて来日した。当時、フォーン君は日本語をほとんど話すことができなかった。

中国から来日し、授業を受けるゾウ・フォーン君。

中国から来日し、授業を受けるゾウ・フォーン君。

将来の夢は鉄道会社で運転士になること。高校への進学は夢を叶えるために必要不可欠だ。フォーン君は八王子市立の夜間中学に通いながら、YSCグローバル・スクールで日本語の勉強を重ねた。
友たちができず、寂しさを募らせるフォーン君は時折自身のフェイスブックにこんなつらい心情を綴っている。

「私もう頑張った、わたしも皆さんと一緒に遊びたい、でも、本当1人で寂しくて、恥ずかしです、それは天の意味です。過去を見て、以前、私はずっと私の友たちを大切にして、しかし彼らは1つすべて私を離れました、私はずっと自分の体の上で原因を探しています、どうして、どうして私を離れて、私は能力がないためですか?」

講師はそうした書き込み一つひとつにもコメントをつけるなどして精神的な支えとなり、彼の受験をサポートした。合格発表前日、プレッシャーから涙を流すフォーン君を講師が抱きしめ、背中をさすりながら励ますシーンもあった。

フォーン君を抱きしめ、励ますYSCグローバルスクールの講師たち。

フォーン君を抱きしめ、励ますYSCグローバルスクールの講師たち。

資金集めは常に綱渡り

YSCグローバル・スクールでは全国で孤立する子どもたちを支援するため、昨年からオンライン学習システムの実験的導入も始めた。経済的な理由で学校に通えない外国人の子どもたちのために新たに無償枠を拡大させる方針だ。また、資金不足から断念していた送迎バスの運行なども計画している。遠方に住む子どもたちに教室に通う道筋をつけたいからだ。

しかし、問題は、資金だ。YSCグローバル・スクールでは、多くの資金を自前で集めた寄付金などによってまかなっている。クラウドファンディングなどを活用して資金確保をする一方で、文部科学省や東京都の補助金を受けてきたが、補助金は突然の打ち切りや見直しがあって財務状況は不安定だ。

安定した教室運営のためには、安定した財政基盤を持つことがもっぱらの課題だ。
一人の生徒が日本語を話せるようになるまでは約1年。20万円あれば全てのコストを賄うことができる。今年は最低でも10人から15人、無償枠を拡大させる計画で、200万円から300万円を自力で集める予定だ。
社会から見落とされがちなこの問題に、ぜひ、多くの人たちの関心が寄せられ、継続的な支援につながることを願う。

取材・文=GARDEN/堀潤